Point Of Know Return - Kansas

アメリカン・プログレ・ハードという言葉がある。1970年代にアメリカで活躍したテクニカルなロックバンドを指す。プログレとはもちろんプログレッシヴ・ロックのことである。プログレは元々はイギリスの音楽であったと言ってよい。一般にプログレと呼ばれていた有名なバンドは皆、イギリスのバンドである。ピンク・フロイド、イエス、エマーソン・レイク&パーマー、キング・クリムゾンなど、これらのバンドはすべてイギリスのバンドである。プログレという言葉自身には本来は音楽の種類や特徴を表す意味はない。単に進歩的なという意味あいしかない。しかし、実際には「技巧的で、かつ、昔からあるロックの形態とは一線を画すロック」というニュアンスが含まれている。そして、アメリカにはこの手のバンドは皆無であった。
アメリカン・プログレ・ハードはこうしたロック・ファンの持つ認識、つまりアメリカにはプログレはないという認識を覆すものであった。プログレッシヴであり、ハードであるというアメリカン・ロック。これがアメリカン・プログレ・ハードである。スティクス、ボストンなどがその代表的な存在である。トトやジャーニーなどもアメリカン・プログレ・ハードと呼んでいい。
しかし、やはりもっとも典型的なアメリカン・プログレ・ハードはカンサスに尽きる。ポップとハードのバランスのよさ、高い技巧性、そしてプログレらしいアプローチ。どれをとっても最高である。
メンバーの中にヴァイオリニストがいるのも大きな強みになっている。それまでのロックにはヴァイオリンを使うことはほとんどなく、キーボードがその代わりをしていた。しかしカンサスは本物のヴァイオリンを使った。キーボードでもヴァイオリンの音は出る。現代ではサンプラーという機材の出現でヴァイオリンの音をそのままキーボードで出すことが可能であるし、ミュージシャンの中には本物のヴァイオリンよりキーボードの出すヴァイオリンの音の方が良いという者もいる。しかし、カンサスの全盛期である1970年代後半の時点ではそのような機材はまだ登場していなかった。そのため本物のヴァイオリニストを加入させることは本当に大きな意味を持っていたと思われる。またヴァイオリンは音の面での特殊性、つまり他のロックの楽器とは違う音色であるということの他に、演奏上の利点が大きいという面もある。ギターなどに較べて早弾きしやすいのである。ギターの演奏では連続して音を出すときは一つの音を出す度にピックを往復させなければならない。しかしヴァイオリンの場合は連続して音を出すときは右手をゆっくりと滑らせるように動かせばよい。あとは左手の動きで音は出る。イングヴェイが凄いのはヴァイオリンでしか弾くことの出来ないようなフレーズをギターで演奏することができるからである。
ヴァイオリンは、バラードのようなスロー・テンポの曲では独特のムードを醸し出し、テンポの速い曲では激しいフレーズを奏でる。カンサスの5枚目のアルバム「Point Of Know Return」(邦題「暗黒への曳航」)では、この両方の面がうまく活かされている。
このアルバムのジャケットはなかなか面白い。1961年にソ連のガガーリン空軍少佐が初めての有人宇宙飛行に成功した時に「地球は青かった」という有名なせりふを残し、地球を外からながめることで地球が本当に丸いということを実証した訳であるが、ずっと昔の人たちは地球は丸いとは思っていなかった。丸いと思っている人はいてもそれは球状の丸ではなく円盤状の丸であった。その人達の考えはこうだ。地面は大きなお盆のような形をしていてその上に陸の部分と海の部分がある。だから海の沖の方へ船でどんどん進んで行くとやがて海の終わりに辿り着く。海の終わりは滝のようになっていて奈落の底へ落ちている。そこから落ちてしまった船はもう戻っては来られない。もう戻れない地点(ポイント・オブ・ノー・リターン)である。このアルバムのジャケットには、今、そのポイント・オブ・ノー・リターンに到達し、まさに奈落の底に落ちようとする帆船が描かれている。このアルバムは全米で最高4位まで上がった。彼らにとって最大のヒットであった。そして、このアルバムにはシングルとして最高6位まで行った「ダスト・イン・ザ・ウインド」が収録されている。日本のCMにも使われたので題名は知らずとも、多くの人は聴いたことのあるメロディだと思うことだろう。フォーク調のたいへん美しい曲で間奏のストリングス・アレンジが素晴らしい(余談だが、日本のフォーク・デュオのチャゲ&飛鳥がこの曲をそっくりパクって作った歌がある。あの美しい間奏まで真似している。呆れるほどそっくりなので怒りすら覚えない。こんな連中が日本でもっとも人気があるとは。他人の作った歌をさも自分が作ったような振りをして金を稼ぐ。こんな連中は世間から抹殺されるべきだ)。
「ライトニングス・ハンド」も素晴らしい。各楽器のぶつかり合いに加えてフレディ・マーキュリーを思わせる迫力あるボーカル。三連符の曲のためか、とてもスピード感溢れる曲である(通常のロックは四分音符を二等分した音が最小単位となる。つまり八分音符から曲が出来ているためエイト・ビートと呼ばれる。これに対し、三連符の曲は四分音符を三等分した音が最小単位となっている。音で示すと、タタタ・タタタ、あるいは、タッタ・タッタとなる。シャッフルなどと呼ばれることがある)。

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[2014-07-05]

1977年,Kansas

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