原曲を超えるカバーはないと言われる。
確かにそうであるが希に原曲を超えるカバーがある。
ヴァン・ヘイレンがカバーした「ユー・リアリー・ガット・ミー」である。
原曲のキンクスのバージョンは録音が悪く演奏も悪いので聞けたものではないが、エディ・ヴァン・ヘイレンがかき鳴らすイントロのリフだけで既に原曲を超える。
1978年、ヴァン・ヘイレンはシングル「ユー・リアリー・ガット・ミー」、アルバム「ヴァン・ヘイレン」でデビューした。アルバムの邦題は「炎の導火線」。炎と火を並べてしまい、日本語としておかしい。
通常はピックを持ち弦を弾くことで発音するギターだが、このバンドのギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンは右手の指で指板上の弦を強く抑えることで発音する「ライトハンド奏法」を使い、驚異的な速弾きを実現し、世の中の度肝を抜く。
「ライトハンド奏法」は日本でしか通用しない言葉らしく一般的にはタッピングと呼ばれる。最初に始めたのはジェネシスのスティーブ・ハケットらしいが、世間に広めたのはエディであることは間違いない。
エディ・ヴァン・ヘイレンと言えば「ライトハンド奏法」という評価もされがちかもしれないが、実際に最も特徴的なのは、その音である。
とにかく乾いている。クラシックでもロックでも感情のこもった演奏、感情のこもった音を出すことが第一義である。ところがエディ・ヴァン・ヘイレンの音は無機質。今でこそエレクトリック・ギターの代表的なサウンドであると言ってもいいが、それまでのギターと言えばウェットなサウンドが主流だったように思う。いわゆる「泣きのギター」である。
フィギュア・スケートの羽生結弦がソチ五輪で使用したことで知られるようになったゲイリー・ムーアの「パリの散歩道」。ゲイリー・ムーアといえば「泣きのギター」の代表格であり、彼の代表曲「パリの散歩道」が発表されたのは1978年である。まだギターはウェットなサウンド、演奏が主流だったはずである。
そんな時代にエディは徹底してドライなサウンド、演奏で世の中の度肝を抜くのである。
しかしアルバムはスローテンポの「ランニン・ウィズ・ザ・デビル」で幕を開ける。エディの歪んでいながらエッジの効いた、アナログなのにデジタルなギター・サウンドは早くも登場するが全開という感じはしない。
二曲目は何とギター・ソロ。コンサートが始まってすぐにギター・ソロが始まったら観客は怒るだろう。この手のギター・ソロは評価しないが、タイトル通り、ギターの音が爆発している。
そして三曲目「ユー・リアリー・ガット・ミー」である。ギターが原曲を凌駕することは先に書いたとおりだが、ボーカルも素晴らしい。これほどのギタリストに対抗できるボーカリストが同じ学校にいたことに驚く。ヴァン・ヘイレンがその後の大成功を掴むには、この稀代のボーカリスト、デイヴィッド・リー・ロスの広い意味でのフロントマン、マネージャーとしての能力が優れていたことは間違いない。インタビューを読むと物事を非常によく考えていて、付き合うと面倒そうな人間であることがよく分かる。
[2015-12-07]
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