ドリカムの限界

ドリームズ・カム・トゥルーが三枚組五十曲収録のベスト盤「私のドリカム」を発表した。
「ベストなのに三枚組」という矛盾を含んでいる時点でベスト盤だとは思わないが「かつて聴いていたが今から昔のアルバムを買い直すよりはいいだろう」という層には最適かもしれない。つまりドリカムは新しいファンの獲得を諦めたと言える。

ピンク・レディーは1970年代に絶大な人気を誇ったアイドルだが、アメリカ進出を狙ったが失敗、日本での人気もなくなった。アメリカ進出が悪いのか、たまたま人気が落ちるタイミングだったのか。その後、松田聖子などのアイドルがやはりアメリカ進出を狙うがいずれも失敗。坂本九でなければ日本人がアメリカのショービジネスで成功するはずがないというのが日本人の共通認識である。

そのタブーに挑んだのがドリカムである。元々、英語、あるいは英語の楽曲に興味があった、ボーカルの吉田美和はアメリカのマーケットを意識したのか、英語の楽曲を多く作るようになり、リズム・アンド・ブルースを歌う和田アキ子的な歌唱スタイルになっていく。
結果は、惨敗。予想通りの結果である。
吉田美和は、英語が上手いと言っても所詮は女学生英語であり、歌が上手いと言っても所詮は合唱部である。アメリカで通用するはずはない。
元々、日本のファンは吉田美和にアメリカン・ポップスは求めていない。求めているのは四畳半フォークの女性版である。ファンはそうは思っていないだろうが、吉田美和の楽曲は極めて四畳半フォーク的である。吉田拓郎や南こうせつが歌う恋愛ソングの女性版である。
二十代女性の等身大の生活をうまく掬い取ることができたのが吉田美和である。

ここからはとりとめのない話である。
彼女の歌唱の限界は上で述べた通りだが、作詞能力の限界も見える。シンガーソングライターとして致命的に語彙が少なく想像力に欠けている。

代表曲「晴れたらいいね」には次の歌詞が登場する。

かなり頼れるナビになるよ

幼なじみにドライブに連れて行けとせがんだときのセリフである。多くの人には理解不明であろう。自動車の助手席に乗せてくれたら地図を見て道案内をする、と言っているのだ。「ナビ」という陳腐な表現を使っているのに、近い将来のカーナビゲーションの普及が想像できなかったのだろうか。

私の好きな曲に「眼鏡越しの空」というのがある。歌っているのは女性であろう。図書館で見かける人物に憧れ、自分も変わろうと歌う。

大嫌いだった眼鏡外せない この何日も
「気を隠す」にも「ちゃんと見る」にも都合がいい

「対象をこっそり見るのに都合がいい」について、「気を隠す」という、剣豪も忍者も恥ずかしくて口に出せないような大仰な表現を使っている。

防御壁の役ばかりでごめん やってみるね
私をきちんと見せてくれる レンズに変える

眼鏡のレンズを「防御壁」に例える。松任谷由実ならばもっと洒落た言葉をチョイスするだろうし、中島みゆきならばもっと知的な言葉を選択するだろう。

この曲は歌詞に稚拙な部分が見られるが、全体的には素晴らしい。
まず、憧れの対象が男性なのか女性なのか判然としないという大きな仕掛けがある。意図的に作ったとすればさすが吉田美和と言わざるをえない。
また「あなたのようになれたらと憧れる」というフレーズが何回か登場する。憧れを表現するのに「憧れる」と書いてしまう点はやはり稚拙と言わざるをえないがよしとしよう。この部分の歌詞は三つの異なるメロディで歌われる。ユニークな作曲法といえるので、これは別の機会に採り上げたい。

吉田美和は今年五十歳になった。今後は歳相応の四畳半フォークを歌ってほしいものである。

[2015-09-09]

Dreams Come True,2015年

In the Wake of Poseidon - King Crimson | Hard to Be a Rock'n Roller - Wig Wam

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