お礼の意味を込めて大盛にしてみた

朝から降っていた雨は昼頃には弱まったが、まだスーツの肩を濡らすには充分であった。
私は、そば屋の戸を開けて中に入った。まだ混み合う時間ではなかった。
入り口のすぐ脇にある食券販売機の適当なボタンを押し、胸のポケットから取り出したICカードをかざすと機械は「肉そば・うどん」「大盛」と書かれた二枚の券を吐き出した。
人件費を浮かすためか、素手で硬貨を扱うという衛生上の問題点を回避するためか。食券販売機の意義について考えてみたが、数秒後にはそれも忘れ、私はカウンターに近付き、二枚の券を静かに置いた。
「肉そば。それと例の野球帽」
私はカウンターの奥にいる親父に告げた。
親父はうなずき、「少し待て」と言った。
そばを茹でている最中で手が離せないということらしい。
この親父の茹で加減は絶妙だ。
茹で上がったそばを器に移し、その器を汁を入れる役のおばちゃんに渡すと、親父は後ろを向き、ティッシュペーパーで手をぬぐった。
そして棚に載せられたベースボールキャップを私に手渡した。

簡単に言えば、昨日、そば屋に置き忘れた帽子を回収できたということです。

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[2008-03-31(Mon)]

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