中島みゆきと松任谷由実は、どちらも1970年代から現在まで書き続けてきたシンガーソングライターです。
同じ時代を並走してきた二人ですが、歌詞の印象はまるで違います。
その違いを感覚ではなく数字で確かめたくなり、歌詞を約900曲分まとめて形態素解析にかけてみました。
対象は中島みゆきが約470曲、松任谷由実が約430曲です。
結論から書くと、二人の差は語彙の中身よりも「誰に向かって歌っているか」にはっきり出ました。
どうやって調べたか
歌詞を単語に分解し、助詞や助動詞などを除いた内容語だけを集計しました。
集計した内容語は中島みゆきが約55,000語、松任谷由実が約42,000語です。
特徴語の抽出には対数オッズ比という指標を使いました。
単純な出現回数だと「いる」「する」のような誰でも使う語ばかりが並んでしまうため、相手と比べてどれだけ偏っているかを見る必要があります。
また1曲の中で繰り返されただけの語がノイズになるので、複数曲にまたがって出る語だけを対象にしました。
中島みゆきは反復し、松任谷由実は回転する
まず1曲の作りが違います。
| 項目 | 中島みゆき | 松任谷由実 |
|---|---|---|
| 1曲の平均文字数 | 423.4字 | 377.0字 |
| 1行の平均文字数 | 14.9字 | 13.9字 |
| 同じ行が繰り返される割合 | 32.0パーセント | 21.4パーセント |
| 語彙の多様性(MATTR) | 0.677 | 0.804 |
| 漢字の文字比率 | 23.7パーセント | 19.5パーセント |
| カタカナの文字比率 | 3.6パーセント | 5.4パーセント |
中島みゆきのほうが1曲が長く、1行も長いことがわかります。
語彙の多様性に使ったMATTRは、50語の窓を動かしながら計算する指標です。
曲の長さに左右されにくいという利点があります。
ここで0.677と0.804という差が出ました。
中島みゆきは長い曲を書きながら、同じ語と同じ行に何度も戻ってきます。
主題を反復して打ち込んでいく構造です。
松任谷由実は短い行を次々に切り替え、一度使った語にはあまり戻りません。
情景を流し撮りしていくような構造です。
表記の傾向も対照的でした。
漢字は中島みゆきが多く、カタカナは松任谷由実が多くなっています。
「あなた」の松任谷由実、「人」と「誰」の中島みゆき
最大の違いはここに出ました。
1000語あたりの出現率で比べます。
| 語 | 中島みゆき | 松任谷由実 |
|---|---|---|
| あなた、あんた | 11.8回 | 21.2回 |
| 君、きみ | 3.6回 | 6.5回 |
| 人 | 11.8回 | 3.5回 |
| 誰 | 9.4回 | 4.0回 |
松任谷由実の「あなた」は延べ約900回、約260曲に登場します。
6割を超える曲で「あなた」と呼びかけている計算です。
視線が一貫して目の前の相手に向いています。
中島みゆきはそこが違います。
一人称が多いうえに、「人」と「誰」が松任谷由実の3倍前後あります。
特定の恋人ではなく、不特定の他者や世間を相手にして歌っている、ということです。
人称の使い分けも大きく違いました。
中島みゆきは「私」「あたし」「あたい」「僕」「俺」を書き分けます。
人物を指す語の回数を並べると差は歴然です。
| 語 | 中島みゆき | 松任谷由実 |
|---|---|---|
| おまえ | 155回 | 3回 |
| 女 | 195回 | 15回 |
| 男 | 96回 | 9回 |
中島みゆきは人物を類型として書く場面が多く、松任谷由実はほぼ「私」と「あなた」に固定されています。
存在を語る中島みゆき、光を描く松任谷由実
対数オッズ比で特徴語を出すと、二人の語彙の性格がそのまま出てきました。
| 中島みゆきに偏る語 | 松任谷由実に偏る語 |
|---|---|
| 人、ない、私、誰、もの、ある、こと、何 | あなた、二人、恋、会う |
| 女、男、者、おまえ、国 | もう、今、ずっと、すぐ、やがて、きっと、もっと |
| 泣く、笑う、歌う、言う、聞く | 光、影、輝く、光る、瞳、雲 |
| 歌、言葉、夜、水 | me、you、love、my |
中島みゆきの上位には「ある」「ない」「もの」「こと」「誰」「何」という存在と否定の語が並びます。
とくに「ない」は966回で、松任谷由実の345回を大きく上回りました。
物事の理屈を述べる語彙だと言えます。
「歌う」「歌」「言葉」が上位に来るのも特徴的で、歌うこと自体が主題になる曲が多いことを示しています。
松任谷由実の上位に並ぶのは時間の副詞と光にまつわる名詞です。
「もう」「今」「ずっと」「すぐ」「やがて」で時間を刻み、「光」「影」「輝く」「瞳」「雲」で情景を照らします。
形容詞でも「白い」「青い」「眩しい」といった視覚の語が上位に入りました。
意味カテゴリごとの出現率を1000語あたりで見ると、次のようになります。
| カテゴリ | 中島みゆき | 松任谷由実 |
|---|---|---|
| 感情の語 | 30.2回 | 24.7回 |
| 生死や宗教の語 | 6.4回 | 4.5回 |
| 時間の語 | 22.3回 | 25.2回 |
| 身体の語 | 17.9回 | 19.8回 |
カタカナと英語の使い方が4倍以上違う
外来語の扱いにも明確な差が出ました。
| 項目 | 中島みゆき | 松任谷由実 |
|---|---|---|
| カタカナ語の種類 | 461種 | 934種 |
| 英単語の種類 | 146種 | 680種 |
| 英字を含む曲名 | 9パーセント | 34パーセント |
曲数は中島みゆきのほうが多いのに、英単語の語種は松任谷由実が4.7倍でした。
中身を見るとさらにはっきりします。
中島みゆきの英語は特定の数曲に固まっており、曲名に使われた語が繰り返し出ているだけのものが目立ちます。
つまり英語が語彙として定着していません。
松任谷由実の「me」「you」「love」「my」は多くの曲に散らばっています。
カタカナ語も「ドア」「ハート」「ガラス」「キス」「バス」「ビル」といった生活のモノの名前が広く分布していました。
問いかける中島みゆき、たとえる松任谷由実
行の終わり方を集計すると、口調の違いが見えました。
| 中島みゆきに多い語尾 | 回数 | 松任谷由実に多い語尾 | 回数 |
|---|---|---|---|
| だろう | 145回 | ように | 137回 |
| れない | 118回 | ないで | 73回 |
| らない | 112回 | かった | 65回 |
| ろうか | 74回 | ていた | 58回 |
中島みゆきは推量と反語と否定で行を閉じます。
断定と問いかけを交互に置く話法です。
松任谷由実は「ように」で直喩を作り、「かった」「ていた」で回想に入ります。
まとめ
頻出語の上位だけを並べると、二人はよく似ています。
愛、夢、心、風、涙。
いる、する、行く、なる。
使う材料はほとんど同じです。
違うのは使い方でした。
| 観点 | 中島みゆき | 松任谷由実 |
|---|---|---|
| 呼びかける相手 | 「人」「誰」という不特定の他者 | 「あなた」「二人」という目の前の相手 |
| 語り口 | 否定と推量で問いを立てる | 「〜のように」とたとえる |
| 曲の構造 | 長く、反復が多い | 短い行を回転させる |
| 表記 | 漢字が多く、外来語は狭い | カタカナと英語の語種が広い |
| 主題 | 生死や存在、歌うことそのもの | 目の前の場面と情景 |
同じ時代に同じ言葉を材料にしながら、片方は世界の理屈を語り、片方は目の前の景色を描いていました。


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