2024年、北海道内の地方都市で立て続けに発生した2つの凄惨な集団暴行事件があります。凄惨な犯行態様や、事件の重要人物に20代前半の若い女性が含まれていることなど、多くの共通点が指摘される「旭川女子高生殺害事件(内田梨瑚被告)」と「江別大学生集団暴行死事件(川村葉音被告ら)」です。
2026年6月、奇しくも同じ週に両事件の第一審判決が相次いで言い渡され、ともに長期の懲役刑という重刑が下されました。
社会に大きな衝撃を与えた2つの事件について、それぞれの概要、逮捕から判決までの時系列を整理し、全国的な報道の直後に類似の事件が起きてしまった背景について、犯罪心理学などの観点から考察します。
2つの事件の概要
内田梨瑚 被告:旭川市女子高校生殺害事件
- 発生時期:2024年4月
- 発生場所:北海道旭川市(神居大橋)
- 事件の背景と内容:SNS上の画像無断使用などをめぐるトラブルが発端でした。内田被告らは当時17歳の女子高校生を車に監禁・暴行した後、旭川市内の渓谷に架かる橋の上で被害者を欄干に座らせ、執拗に脅迫して川へ転落させ、溺死(殺害)させました。
- 司法の判断:殺人罪や不同意わいせつ致死罪などに問われ、2026年6月22日、旭川地裁は求刑通り「懲役27年」の判決を言い渡しました(被告側は控訴しない方針)。
川村葉音 被告ら:江別市男子大学生集団暴行死事件
- 発生時期:2024年10月
- 発生場所:北海道江別市の公園
- 事件の背景と内容:被害者である男子大学生(当時20)に対し、交際相手の女や、友人関係にあった川村被告、暴行を主導したとされる川口被告ら男女6人が共謀しました。深夜の公園で集団による激しい暴行を加え、外傷性ショック等により死亡させています。さらに、動けなくなった被害者から金品を奪うという強盗行為にも及んでいます。
- 司法の判断:強盗致死罪などに問われ、2026年6月25日、札幌地裁は川村被告に対し「懲役30年」の判決を言い渡しました(求刑は無期懲役)。
事件の発生から判決までの時系列
2つの事件の流れを時系列で比較すると、2024年に相次いで発生した事件が、2026年6月にほぼ同時に大きな司法判断を迎えたことが分かります。
| 年月 | 旭川女子高生殺害事件(内田梨瑚) | 江別大学生暴行死事件(川村葉音ら) |
|---|---|---|
| 2024年4月 | 事件発生。SNSトラブルから女子高生を拉致・殺害。 | — |
| 2024年5月 | 逮捕。内田被告らが殺人容疑などで逮捕。 | — |
| 2024年10月 | 内田被告らの起訴・捜査が進む。 | 事件発生。江別市の公園で大学生に集団暴行。 |
| 2024年10〜11月 | — | 逮捕。川村被告らが強盗致死容疑などで相次いで逮捕。 |
| 2026年5月 | 裁判員裁判が開始。殺人罪への関与を一部否認。 | 裁判員裁判が開始。主導権や量刑が激しく争われる。 |
| 2026年6月22日 | 第一審判決。旭川地裁が懲役27年を言い渡す。 | 判決間近の報道が過熱。 |
| 2026年6月25日 | 被告側が控訴しない方針と報道。 | 第一審判決。札幌地裁が懲役30年を言い渡す。 |
共犯者が複数いることや凄惨な犯行態様の解明、責任能力・量刑の争点整理などのため、両事件ともに逮捕から第一審判決にいたるまで約1年半から2年弱の慎重な審理期間を要しました。
2つの事件にみられる共通点
この2つの事件は、単に同じ北海道で起きたというだけでなく、犯罪の構造において以下のような共通点が指摘されています。
- 北海道内の地方都市・ベッドタウンで発生:旭川市、および札幌市のベッドタウンである江別市という、地方都市のコミュニティ内で発生しました。
- 事件の発端・主導に関わった20代前半の若い女性:犯行当時、内田被告は21歳、川村被告は20歳でした。グループの中で強い発言権を持っていた、あるいは事件の発端となった人物の一人として審理が進められました。
- 地元の関係性による集団心理とエスカレート:どちらも単独犯ではなく、10代の少年・少女を含む複数人のグループ犯行です。深夜に被害者を呼び出し、囲い込んで逃げ場をなくした上で暴行が過激化するという構図が共通しています。
- 2026年6月に相次いだ重刑判決:1つの裁判で言い渡される有期懲役の上限(30年)に達する、あるいはそれに近い非常に重い判決が同じ週に相次いで下されたことは、司法がこれらの犯行態様を極めて悪質とみなした結果と言えます。
考察:旭川の事件がありながら、なぜ江別の事件は起きたのか
多くの人が疑問に思うのは、「旭川の事件が全国的に大きく報道されていた状況で、なぜわずか半年後に江別の事件が起きてしまったのか」という点です。
裁判で個々の詳細な内面がすべて明文化されたわけではありませんが、犯罪心理学や一般的なグループ犯罪の傾向からは、以下の要因が可能性として指摘できます。
「自分たちはあそこまでいかない」という認知の歪み
旭川事件は全国的に報道されていたため、江別事件の加害者らが報道に接していた可能性はあります。しかし、犯罪心理学の観点からは、人間が都合の悪い現実を排除しようとする「正常性バイアス」や「認知の歪み」が働いた可能性が指摘できます。
当初の意図がどこまでだったかは明確ではないものの、身内の男女トラブルに対する「仕返し」や「説教」という身勝手な動機から始まった場合、大ニュースになった旭川の事件を見ても、「あれは特異な殺人事件であり、自分たちの行為とは別物だ」と、頭の中で切り離して捉えていた可能性が考えられます。
集団心理による理性の麻痺とブレーキの喪失
地元の先輩・後輩といった上下関係や、狭いコミュニティのグループが集まったとき、個人の理性を上書きする強力な集団心理(同調圧力)が働くことがあります。
- 責任の分散:「みんなでやっているから、自分一人の責任ではない」と感じる心理です。
- エスカレートの相互作用:周りへの誇示や、「仲間がやったから自分もやらなければならない」という同調です。
最初は引き返す余地があったとしても、グループ内のノリや煽り合いによって犯行がエスカレートし、途中で「やめよう」と言い出せない心理状態に陥るケースは、集団犯罪において珍しくありません。
現実感の希薄さとリスク管理の欠如
一部の専門家からは、SNSやオンライン環境への依存、あるいは短絡的な思考が現実感覚に影響を与える可能性も指摘されています。
旭川の事件はSNSのトラブルが発端であり、江別の事件でも激しい暴行を加えた直後に被害者のクレジットカードをコンビニで使用するなど、行動に極めて短絡的な側面が見られます。「これをやったら相手がどうなるか」「自分たちの人生に長期の刑事責任が及ぶか」という因果関係が、目の前の感情やグループの勢いによって、リアルなリスクとして想像できていなかった可能性が残ります。
まとめ
旭川と江別の事件は、単に凄惨な事件が繰り返されたというだけでなく、「どれだけ社会的・客観的に大きなニュースであっても、当事者の心理や集団心理の渦中にあっては、必ずしも抑止力として機能するとは限らない」という複雑な課題を突きつけました。
「報道を知っていること」と「目の前の自分の行動を律すること」の間に、集団の同調圧力や短絡的な感情が介在したとき、理性が上書きされてしまう。これこそが、わずか半年の間に類似した悲劇が繰り返されてしまった背景にある、犯罪心理的な側面と言えるでしょう。


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