死んでも可いわ
昔のメモを整理していたところ、次のようなフレーズが見つかりました。
そういえば「I LOVE YOU」の最初の日本語訳は二葉亭四迷がつけた「死んでも可いわ」だそうです。
おそらくツイッター(当時)で見たのだと思います。
根拠を探してみようと思い、見つけたのが次の記事です。
「二葉亭四迷は「I love you.」を「死んでもいいわ」と訳していない。」とのことです。
この記事を元に詳しく調べてみます。
原典(ロシア語)
ロシアの文豪、イワン・ツルゲーネフの「初恋」という中編小説があります。
これを二葉亭四迷が日本語に訳しています。
ツルゲーネフの「初恋」の16章は次の通りです。
Я забыл всё, я потянул ее к себе — покорно повиновалась ее рука, всё ее тело повлеклось вслед за рукою, шаль покатилась с плеч, и голова ее тихо легла на мою грудь, легла под мои загоревшиеся губы…
— Ваша… — прошептала она едва слышно.Уже руки мои скользили вокруг ее стана… Но вдруг воспоминание о Гагине, как молния, меня озарило.
直訳してみます(Claude(Opus4.8)による翻訳)。
私はすべてを忘れた、私は彼女を自分のほうへ引き寄せた——彼女の手は従順に従い、彼女の体全体が手に続いて引き寄せられ、ショールが肩から滑り落ち、彼女の頭は静かに私の胸の上に、燃え立つ私の唇の下に横たわった……
「あなたのもの……」と彼女はかろうじて聞こえるほどの声でささやいた。
ваша は「ваш(あなたの)+ 女性単数主格」なので「あなたのもの」という意味になります。
流れから「(私は)あなたのもの」というニュアンスです。
翻訳(日本語)
次に二葉亭四迷の翻訳を見てみます。
片恋
ツルゲーネフ 著 (春陽堂)
二葉亭四迷 訳

私は何も彼も忘れて了つて、握つてゐた手を引寄せると、手は素直に引寄せられる、それに随れて身躰も寄添ふ、シヨールは肩を滑落ちて、首はそつと私の胸元へ、炎えるばかりに熱くなつた唇の先へ來る…
「死んでも可いわ…」とアーシヤは云つたが、聞取れるか聞取れぬ程の小聲であつた。
該当箇所の比較
ツルゲーネフ
「ваша」=「(私は)あなたのもの」
二葉亭四迷
「死んでも可いわ」
「私はあなたの物よ」で済むところを「死んでもいいわ」は、意訳しすぎと言わざるを得ません。
恋人に対して使うтвояではなく、他人に対して使うвашаを使っているところから、原作ではアーシャは相手を恋人ではなく他人と思っていると考えられ、それを「死んでもいいわ」だと馴れ馴れしすぎるようです。
結論
そして「I love you.」なんて誰も言っていません。
「「I LOVE YOU」の最初の日本語訳は二葉亭四迷がつけた「死んでも可いわ」」は嘘でした。
そもそも原典はロシア語なので「I love you.」であるはずはないのでした。
ちなみに英語版は「Yours」でした。


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