Heart - Heart

バンドにボーカリストが二名以上いるケースがある。メインボーカリストがいるがアルバムの中で一曲か二曲を別のメンバーが担当するというようなケースが多いかもしれない。
このような形態でメイン・ボーカリストでないメンバーが歌った曲がそのバンドの最初の全米一位になってしまったケースを二つ知っている。
その一つがハートである。

ハートは中心メンバーが姉妹のハード・ロック・バンドである。
姉のアン・ウィルソンがボーカルを担当する。黒髪のいかにもロックをやりそうな風貌である。
一方、妹のナンシー・ウィルソンは金髪の美人でギターを担当する。

デビュー当時は女声のハード・ロックが珍しく、特にアン・ウィルソンは「女ロバート・プラント」と呼ばれるほど好評であった。レッド・ツェッペリンのカヴァーをやっていたからであろう。今、初期の曲を聴くとロバート・プラントより声は低いように思われる。

デビュー後は人気があったが暫くすると低迷期に入る。
そしてハード・ロックの色を薄めた売れるアルバムを作った。それが1985年の「ハート」である。キャリアの中盤でバンド名を冠したアルバムを発表するケースはあるが、多くは起死回生を狙ったものであり、これもその一つと言える。
実は前年に姉のアンはサントラアルバム「フットルース」からシングル・カットされた「オールモスト・パラダイス」にデュエットの一人として参加しており、ヒットしていた。
こんな事情もありアルバム「ハート」は大ヒットする。

シングル・カットされた「ジーズ・ドリームズ」はメイン・ボーカリストのアンではなく、ナンシーが歌った。彼らが作ったのではなく外部から提供された曲で、元はスティービー・ニックスが歌うはずだったがボツになったので、ハートが使うことになったらしい。スティービーも金髪で可愛いタイプだからナンシーが歌うことになったのかもしれない。
曲はスローなバラードで確かにスティービーには合わない気がする。ナンシーはアンほど上手くもなくパワフルでもないが、声質が曲に合っている。
これが売れた。ハートとして最初の全米一位を獲得するほどのヒットとなった。
アルバムのオープニングは「イフ・ルックス・クッド・キル」でアンのパワフルな歌が炸裂するハード・ロック。「ネバー」はシングル・カットされ、全米トップテンに入る大ヒット。「ジーズ・ドリームズ」はこの後のシングル・カットだから、姉が盛り上げたハート人気のムードの中でたまたま妹が歌った曲がヒットしたというのが真相かもしれない。

妹に先を越されたが、次のアルバム「バッド・アニマルズ」からのシングル「アローン」は姉がボーカルを担当し全米一位となった。アンの渾身の絶叫が炸裂する珠玉のパワー・バラードである。

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[2015-05-24]

Heart,1985年,Led Zeppelin,ロバート・プラント

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