Midnight Madness - Night Ranger

ハード・ロックで用いられる不可欠の楽器はギター、ベース、ドラムスの3種類である。これにボーカルが加わるが、ボーカルは専任であったり、他の楽器との兼任であったりする。
さらにギターがもう一つ、またはキーボードが加わることがある。
これらを分類してみる。ギターをg、ベースをb、ドラムスをd、キーボードをkとし、ボーカル兼任ならば大文字とする。ボーカルはVとする。
バンドのメンバーのパターンを記号で表すと次の18通りになる。

Gbd e.g.ブルー・マーダー
gBd e.g.ポリス
gbD
Ggbd e.g.メタリカ、メガデス
ggBd e.g.シン・リジィ、スレイヤー
ggbD
Gbdk e.g.ピンク・フロイド(デイブ・ギルモア)
gBdk e.g.ピンク・フロイド(ロジャー・ウォーターズ)
gbDk
gbdK e.g.クイーン
Ggbdk e.g.ブルー・オイスター・カルト
ggBdk
ggbDk
ggbdK
gbdV e.g.ブラック・サバス
ggbdV e.g.ジューダス・プリースト、アンスラックス
gbdkV e.g.ディープ・パープル、イエス
ggbdkV

もちろん、これらに当てはまらないバンドもある。例えば、今のアイアン・メイデン。トリプル・ギターだから、もし書くとすれば「gggbdV」となる。
それぞれ思い付くバンドを挙げてみたが、思い付かない組合せが色々ある。特にドラムスがボーカルを兼務するケースが思い付かなかった。イーグルスやグランド・ファンク・レイルロードが該当するはずだが、メンバー構成を思い出せない。

ナイト・レンジャー。
ギター二人、キーボード一人で、ボーカルはベースまたはドラムスが兼ねる。分類ではggBdkまたはggbDkとなる。上で思い付かなかったドラムスがボーカルを兼務するケースの一つだ。

ギター2本にキーボードならばライブにおいても音が薄いということはない。ロック・バンドの形態としては理想的なのではないだろうか。スリー・ピース(Gbd、gBd、gbD)とは逆の方向で。
ナイト・レンジャーの場合、この二人のギタリストがすごい。
ブラッド・ギルスは「ブラッド・ギルス奏法」とか「クリケット奏法」と呼ばれるアームを使った奏法で有名である。ギターは長く張った弦を振動させ音を出す楽器である。その張る力を緩めると低い音が鳴る。アームには押し下げると弦を張る力を緩める機能がある。これで音程を滑らかに下げることができる。ブラッド・ギルスはこれを使うのが得意で、特にアームを細かく叩くようにして音程を変えながら演奏するのが得意である。これがクリケット奏法である。ただし私はこんな文字通り小手先の技はどうでもいいと思っている。
ジェフ・ワトソンは「エイトフィンガー奏法」と呼ばれるタッピングを駆使した奏法で有名である。ギターは左手で弦を押さえ右手で弦を弾いて音を出す。エレクトリック・ギターだと弦を強く押さえるだけで音が鳴る。これをタッピングと言うが、左手だけでなく右手でもタッピングをする奏法をエイトフィンガー奏法と言う。ただし私はこんな文字通り小手先の技はどうでもいいと思っている。
曲作りのセンス、華やかなアメリカン・ロックを作り出すセンスが素晴らしいのだ。
トップ・レベルのギタリストが二人、ボーカルが二人いて、しかもキーボードがいて、5人組。おそらく最強の布陣と言える。

実際、彼らの曲はバラエティに富み、どの曲も素晴らしい。ハード・ロックの範疇のありとあらゆるパターンの曲を創り演奏した。そしてその器用さが自分たちの首を絞めた。
彼らのアルバムで私が最初に買ったのは「ミッドナイト・マッドネス」である。まだLPの時代だ。ここに彼ら最大のヒット曲「シスター・クリスチャン」が収録されている。ピアノのイントロで始まるパワー・バラードである。名曲である。しかし、あまりにこの曲が売れたため、レコード会社は、その後、このようなバラードを創ることを彼らに求めた。これにより彼らは創造性を失い、失速したと私は認識している。

このアルバムは彼らの代表曲「ロック・イン・アメリカ」から始まる。派手なギターのイントロ、パワフルなボーカルに並走するカラフルなキーボード。ギター・ソロではブラッド・ギルスのアーミングを豪快に使った演奏とジェフ・ワトソンのエイトフィンガー奏法を聴くことができる。
2曲目以降も、印象的なイントロ、覚えやすく迫力のあるコーラス、豪快で繊細なギター・ソロが満載で、全ての曲が素晴らしい。いや、ラストの「レット・ヒム・ラン」だけは退屈かもしれない。

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[2015-01-30]

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