War Of Words - Fight

1993年夏にジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードがソロ・プロジェクトをスタートさせ、そのデビューアルバムを発表した。一応、ファイトというバンド名義になっているが、このことにより、ロブのジューダス・プリースト脱退が現実のものとなった。
ファースト・アルバム(正確に言えば、彼はバンド結成時のオリジナル・メンバーではないのであるが…)から最新作の「ペインキラー」までジューダス・プリーストの看板を背負ってきた男がついに脱退する。ロブはジューダス・プリーストだけではなくヘヴィ・メタルのイメージを決定づけるほどのキャラクターの持ち主であっただけに、この脱退はジューダス・プリーストの他のメンバーにはとても大きなショックであろう。ロブはニュー・プロジェクトにジューダス・プリーストのドラマーであるスコット・トラヴィスまで連れて行ってしまった。
元々、ジューダス・プリーストはドラマーが流動的であった。バンドとしてのレベルをアップさせる度にドラマーを替えてきた。例えば、彼らの代表作「ステンド・クラス」ではレス・ビンクスを加入させ、アルバムの冒頭でドラム・ソロを叩かせている。それと同じことをスコットの場合、つまり「ペインキラー」にもやった。この手のヘヴィ・メタル・バンドではリズムのキープが核になる。ジューダス・プリーストのファン達は若いスコットの加入によりジューダス・プリースト史上最高の布陣となったと感じた。しかし、その直後にこのような状況になるとは夢にも思わなかったであろう。
ロブのソロ・プロジェクトの話は「ペインキラー」発表後に持ち上がってきたのであるが、当然、ジューダス・プリーストの活動とは並行して、あるいは完全に趣味として行われるものだと皆は思ったはずだ。しかし、ロブが意図していたことはジューダス・プリーストとは完全に決別して全く別のグループを作ることであった。
何故、彼がそのような行動をとったのか。ジューダス・プリーストのドラマーをのぞいた四人のメンバーはファースト・アルバム以来の不動のメンバーである。人間関係にその脱退の原因があるとは考えにくい。おそらく、音楽性の違いではないだろうか。ロブはジューダス・プリーストとは違う音楽をやりたくなったのかもしれない。アルバム「ペインキラー」はヘヴィ・メタル史上に残る傑作である。ロブは「ペインキラー」の方法論が納得できなかったのか。それともその方法論は完結したのだと考えたのか。その答は彼の新しいバンド、ファイトの音を聴けばはっきりするであろう。
八十年代のイギリスのヘヴィ・メタルを支えてきたふたつのバンドと言えばジューダス・プリーストとアイアン・メイデンである。何という偶然か、メイデンのボーカリスト、ブルース・ディッキンソンも同時期に脱退した。しかし、彼の脱退は納得できる部分もある。在籍時から既にソロ・アルバムを発表するなど、メイデンとはかなり違う路線を目指していたことは明らかだったからだ。
もっとも、アイアン・メイデンは、元々、メンバー・チェンジの多いバンドであった。デビュー当時からのオリジナル・メンバーはベースのスティーブ・ハリスとギターのデイブ・マーレイの二人だけである。ツイン・ギターの相棒の方は既に三人目であるし、ボーカルも次に来るとやはり三人目である。スティーブ・ハリスのリーダーシップがしっかりしているために音楽性の変化がほとんど無いのである。次のボーカルがどんなメンバーであってもメイデンはメイデンの音楽を創り続けるであろう。心配することは何も無い。
ジューダス・プリーストの方はどうか。リーダーは明らかにロブ・ハルフォードである。しかし、音楽的な面のみに注目してみると必ずしも主導権をロブが握っていたとは言いがたい。確かにロブの超人的な声質がジューダス・プリーストのカラーを決定づけていたことは事実である。彼のあの声を聴けばジューダス・プリーストの曲だとすぐわかる。彼の唱法を模倣しているボーカリストも数多くいる。ところがジューダス・プリーストの魅力はそれだけではない。ドラマティックな曲の展開やダイナミックなリフ、フレーズがジューダス・プリーストの音楽を支えていたと言える。ロブの声がなくても十分ジューダス・プリーストだとわかるオリジナリティを持っていた。音楽的な精神性を支えていたのは、K・K・ダウニングであり、音楽的な技術性を支えていたのは、グレン・ティプトンである。つまり、二人のギタリストこそがジューダス・プリーストの核であったのだ。
もっとはっきり言うと、ジューダス・プリーストにロブ・ハルフォードは不要である。彼らの音楽を語る上で、ロブ・ハルフォードの作り上げたイメージが必ずしもプラスには作用していない。超人的な声も聴きようによっては、ふざけて叫んでいるとしか聴こえない。
新しいボーカリストには柔軟でかつ迫力のある若者を期待する。そして、ジューダス・プリーストの音楽性の幅をもっと広げてほしい。

※この記事は1993年に書かれたものです。

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