プログレの歌唱力(A Trick of the Tail - Genesis)

プログレは演奏に重きを置くためボーカルを軽視しているかもしれない。
ルネッサンスのアニー・ハズラムは女性ボーカルでありプログレ界では随一の歌唱力を誇る。イエスのトリビュート・アルバムで「ターン・オブ・ザ・センチュリー」を歌っているが本家ジョン・アンダーソンよりも上手い。
こういう例外もあるが五大プログレに限ればどうだろうか。

グレッグ・レイクはベーシストであるがキング・クリムゾンのファースト・アルバムでボーカルを務め、その後、エマーソン・レイク&パーマーでもボーカルを務めた。五大プログレの二つでメイン・ボーカルを務めたのは彼だけである。キング・クリムゾン時代のレイクは硬軟自在で「エピタフ」のようなバラードも「キャット・フード」のようなパンキッシュな曲もこなす。エマーソン・レイク&パーマーに加入した後も素晴らしかったが後期は野太い声しか出なくなった。
キング・クリムゾンにはその後、ジョン・ウェットンが加入した。レイクと同じくベース兼任ボーカルである。彼が加入していた頃のクリムゾンは歌メロを重視していた部分があったようで「バイブル・オブ・ブラック」などはウェットンなくしては成立しない佳曲と言えるかもしれない
ウェットンはその後、エイジアを結成し大活躍をするがやがて脱退。後釜は何とレイクで日本公演に参加した。私はこのときの歌唱には不満を持っている。
五大プログレの中でも絶大な人気を誇るピンク・フロイドであるがボーカルの面では弱いと言わざるを得ない。キャリアの前半はロジャー・ウォーターズ、後半はデイヴ・ギルモアがボーカルを担当したが歌唱力としてはせいぜい及第点であろう。
イエスのボーカルはジョン・アンダーソンである。ハイトーンで美しくイエスのサウンドにマッチしているが応用力に欠ける気がする。

ジェネシスのボーカル、ピーター・ガブリエル は良くも悪くもジェネシスの顔である。シアトリカルで多彩な表現力は認めるが歌唱力には疑問が残る。特に初期のジェネシスの発想の多彩さには舌を巻かざるを得ないが如何せん演奏力で他の五大プログレに見劣りがする。ガブリエルがステージで奇妙な被り物をしていたのも歌唱力のなさ、自信のなさの裏返しであろう。この頃のジェネシスの楽曲をイエスのメンバーが演奏したならば、と想像すると楽しい。
このジェネシスにとんでもない隠し玉があった。ドラムスを担当していたフィル・コリンズである。初期の怪しい演奏の中でも彼の安定したドラミングがあったために緊張感を失うことがなかったと思う。
やがてピーター・ガブリエルはジェネシスを脱退する。バンドは新しいボーカリストを加入させずドラマーのフィル・コリンズにボーカルを兼務させることにした。
これが大当たりであった。はっきりしているのは前の専任ボーカリストよりも数段、歌が上手い。ルックスはかなり劣るが。
フィル・コリンズは1976年の「トリック・オブ・ザ・テイル」からリード・ボーカルを兼務する。収録された八曲はいずれも四分から八分の長さでコンパクトにまとまっている。「歌もの」としての楽曲に重きを置き始めたと言えなくもない。特に叙情的な曲に関してはフィル・コリンズの良さが発揮されている。タイトル曲などはオフコースと間違えるほどポップである。

やがてフィル・コリンズはソロ活動を始める。そしてジェネシス以上の成功を収める。当時「世界一忙しい男」と呼ばれ1985年のライブエイドではイギリス会場で歌った後、今は亡きコンコルドでアメリカ会場に渡りレッド・ツェッペリンのドラマーを務めた。
プログレ界で最も優秀なボーカリストはフィル・コリンズとしたい。

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[2016-01-27]

1976年,Genesis,フィル・コリンズ,評論

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